プロローグ、的なもの
夢にまで見た大学に入った俺は完全に燃え尽きていた。
それまで燃えていた心の中の炎は消え、何事に対しても身の入らない日々が続いた。
目の当たりにした周囲の人間の遠く及ばない才能、能力、自信。
対照的な自分が惨めでたまらなかった。
理想の大学生活とは乖離した毎日。
願いを叶えたはずなのに、最高の環境にいるはずなのに、自分のやりたいことを見失っていた。
ーーいや、もともとやりたいことなんてなかったのかもしれない。
高校に入ってとりあえず周りと同じように部活をし、勉強をし、大学に進学することに対しても何の疑問も抱いてこなかった。
苦しかったけど続けた部活も、好きだった人にカッコつけるために目指し猛勉強して入った大学も、結局自分が真に望んでいたことではなかったのだろう。
自身の手で選択をしているつもりでいて、結局は先生や親に与えられた選択肢の中から「自分の意志で」選択をし、そこから少しでも逸れてしまうことに萎縮していた。
そしてそんなことを繰り返しているうちにいつのまにか意志のないつまらない人間に成り下がってしまっていた。
ふと我に返ってそんな現実に気付いた時、自分が信じられなくなり、生きている意味さえ分からなくなった。
劣等感、孤独、絶望。
自分が生きていた世界は虚無だった。
そして俺はそこに意味もなく生きる屍だった。
それでも熱く生きることに対する憧れがなかったわけではなかった。
熱い青春みたいなありふれたフレーズを表面上は毛嫌いしつつも、きっとそんな人生を心の奥底では求め続けていた。
俺だって輝いていたかった。
胸がとろけるような恋愛も、何かに対するとどまることをしらない熱い情熱も、こいつのためなら◯んでもいいと思える友情も、できることならそんな全てを本気で味わってみたかった。
でも、天邪鬼で不器用な性格故にそんなカッコいいことなどできなかったし、その術さえも知らなかった。
それでもずっと、熱くなれるような何か、生きていると感じられるような何かを探していた。
そんな暗闇の中で俺は釣りに出会った。
正確には熱いと思える釣りに出会った。
釣りは5歳の時からやっていたし、3日坊主な自分でもずっと好きでいられた唯一のものだった。
でも、15年近くやってきて心から熱いと思える釣りに巡り会ったのはこの時が初めてだった。
大学の釣りサークルの先輩達に教えてもらった釣りは俺が今まで知っていたそれではなかった。
それまで好きだった小物釣りではなく、離島に遠征をしてGTなどの大物を狙うような釣り。
先輩が磯から釣り上げた巨大なカスミアジとイソマグロに心が釘付けになった。
自分もこんな大物を手にしてみたい。
気づけばそんな想いが胸の中で渦巻いて止まらなくなっていた。
そして、それからの俺はどんどん釣りにのめり込んでいった。
離島への遠征を繰り返し、海外にも釣りのためだけに赴くようになった。
よく、釣りのどこがそんなにいいのか、と聞かれる。
多すぎて答えられないけれど、魚を苦労して手にした時のこの上ない感動がやはり一番なんだろうと思う。
憧れの魚を手にした時、この世の全てのしがらみから解放された純粋な感動がそこにはある。
頭は真っ白になり、手足は震え、心臓の鼓動は鳴り止まない。
興奮を超えた何かがそこにはある。
どこかに置き忘れてしまった感情がそこにはある。
釣りはこんな自分でも輝くことを許される唯一の舞台なのかもしれない。
だから、釣りは自分にとってもはや趣味ではない。
人生のかけがえのない居場所なのだ。
さて、ようやく本題に移ろうと思う。
釣り好きが災いして研究の事情で離島にしばらく滞在することになってしまった。
自分でも何故こうなってしまったかはよく分からないが、とりあえず目標はショアから釣るGTである。
正直、将来とか不安なことは山ほどある。
辛いこともいっぱいあるだろう。
でも、
「GTを釣れば人生が変わる。」
本気でそう信じてしまう自分がいる。
魚を釣っても結局何もならないなんて笑われたりもするけれど、そんな馬鹿なことに対してこんな気持ちになれることを心から大切にしていきたいと思う。
これは、怪魚ハンターのように世界を悠々駆け巡る度胸もない、プロアングラーのように眼を見張る器量もない、不器用で臆病で、だけども釣りのことになるとちょっとだけ熱くなってしまう大学生アングラーの迷える釣り日記である。
才能もない、度胸もない、情熱もきっと足りてない。
だから怪魚ハンターやプロアングラーなんてカッコいいものにはなれないけれど、それでもいい年してそんな「ヒーロー」達に憧れ夢を見てしまう。
でもそんなダサいヤツがいろいろなことに苦しみ悩んで、落ち込んで、そんでもってたまに上手く行っちゃうような、そんなちっぽけなサクセスストーリーがあっても良いと思う。
そんな物語が書けたらいいなあと思ってブログを始めた。
きっと将来見返したら恥ずかしくなるけれど、それをダサかっこいいってちょっとでも思えるような、そんな釣り人生を送りたい。そんな願いを込めてタイトルを決めた。
気持ちの悪いブログだと思いますが、どうぞ応援よろしくお願いします。
でも本当は、釣竿よりも女性の手を握っていたいのが本音ではある。